オバマ　ナオヤ   Naoya Obama   小浜　尚也    所属   川崎医療福祉大学  リハビリテーション学部 言語聴覚療法学科    職種   講師
言語種別	日本語
発表タイトル	主観的・客観的 Listening effort の神経動態の時間差解析
会議名	第70回日本聴覚医学会総会・学術講演会
学会区分	全国規模の学会
発表形式	口頭
講演区分	一般
発表者・共同発表者	岡本一宏, 小浜尚也, 兒玉成博
発表年月日	2025/10
国名	日本
開催地 （都市, 国名）	千葉
開催期間	2025/10/15～2025/10/17
概要	【目的】Listening effortは背景雑音や信号劣化によって音声信号が聴取困難な状況で，意味を正確に把握しようとするときに動員される認知的資源の総和を指す1)。臨床現場では「会話は聞き取れるが疲れる」といった訴えの背景要因として重要視される。Listening effortは主観的努力と客観的努力に大別されるが2)、両者の時系列的前後関係は未解明である。この時間的前後関係の解明は、Listening effortの評価や介入方法を最適化する上で重要な知見となる。本研究では同一試行内で主観的努力と客観的努力の立ち上がり時点を同定し、両者の時系列的前後関係を実証的に検証することを目的とした。 【方法】聴力正常の健常成人23名（女性13名、男性10名、平均年齢21.4±1.8歳）を対象とした。参加者は、2基のスピーカーで仮想10方位のマルチトーカーノイズを再現した環境条件で、平均信号対雑音比-3dBの3モーラ単語を聞き取る課題に取り組んだ。脳波は9電極（F3・F4・Fz・C3・C4・Cz・P3・P4・Pz）から連続収録し、独立成分分析で瞬目・筋電アーチファクトを除去した。主観的努力は各試行終了時にVisual analog scaleで定量化し、全参加者の中央値によって二値化してHigh／Lowラベルを作成し、Multivariate Pattern Analysis（MVPA）の教師ラベルとした。本研究ではロジスティック回帰分類器と層化10分割交差検証を用いて時系列Area under the curveを算出した。最大統計量PermutationでFamilywise error rate＜0.05となる最初の時点を主観的努力の潜時（MVPA潜時）と定義した。客観的努力の潜時はMorlet wavelet変換で得たα帯域パワーのz値が±0.5SDを初めて超えた時点（α潜時）とした。α潜時とMVPA潜時の差（Δt）について対応のあるt検定で検討した。 【結果】主観的努力のMVPA潜時は493±51ms、客観的努力のα潜時は−66±48msであった。Δtは −559±61msであり、客観的努力は主観的努力より有意に早期に出現した（t=14.25、p＜0.001、Cohen’s d=3.07、95%信頼区間は−635.7〜−481.9ms）。 【考察と結論】α帯域パワーは音声信号の到着前から変化し始めており、聴取困難を予測して認知的資源を割り当てている可能性が考えられる。これに対し、主観的努力は音声信号の到着後に顕在化した。両者が示すタイムラグは、Listening effortの客観的指標がより早期の処理段階を捉えていることを意味する。客観的努力の早期検出は、将来的に主観的努力が自覚される前段階で補聴器の指向性パターンや雑音抑制ゲインを自動調整するなど、適応的な負荷軽減策に応用される可能性がある。