ヤマウチ アキラ   Akira Yamauchi
  山内 明
   所属   川崎医科大学  医学部 基礎医学 生化学
   職種   教授
言語種別 日本語
発表タイトル 新しい細胞動態評価法でスクリーニングした抗腫瘍薬の応用
会議名 令和5年度ウエスコ財団優秀研究者賞授賞講演会
主催者 ウエスコ学術振興財団
招聘 招聘
発表形式 口頭
講演区分 特別講演・招待講演など
発表者・共同発表者山内明
発表年月日 2024/06/06
開催地
(都市, 国名)
岡山
開催期間 2024/06/06~2024/06/06
概要 癌には“増殖”と“転移・浸潤”の2つの面があり、転移・浸潤は生命予後に大きく関わっている。このことから、転移・浸潤を抑えることができれば、手術療法によって治癒を目指すことができると考えられる。一方、細胞が動くという現象は、単細胞生物から霊長類に至るまで普遍的な営みであり生命維持には欠かせないものとなっている。しかしながら癌においては細胞運動が転移・浸潤の原動力となっており、人類にとっては適切に制御できることが望ましい現象である。

本研究では次のような成果を生み出すことができた:
1) 新しいスクリーニング法により膵癌細胞の動きを制御する化合物を複数見出した
2) これらの化合物の一つは動物実験で膵癌の増殖と転移の両方を抑制した
3) この化合物は増殖および転移に関わる分子群の発現を制御することがわかった

これらの成果に結びついた経緯は次の通りである。
筆者らは細胞動態をリアルタイムに観察し、画像解析により定量化する画期的な技術TAXIScan法を応用し、癌細胞の動態を評価する方法を確立した癌細胞の新しい細胞動態評価方法を確立した。この評価方法を用いて、各種の化合物ライブラリーの中から、ヒト膵癌細胞BxPC-3の走化性を抑制する新規化合物を複数見出した。これらの化合物はin vitroにて膵癌細胞BxPC-3の走化性を抑制したことから、転移・浸潤を抑える薬剤候補として期待された。さらに動物実験(in vivo)にて検証を続けた結果、これらの化合物の一つ化合物14-140は、膵癌細胞をヌードマウスに移植した異種移植モデルにおいて、転移・浸潤および増殖をどちらも抑制することを見出した(特許出願済)。転移・浸潤および増殖をどちらも抑制する機序を解明するために、この化合物14-100が膵癌細胞へ及ぼす影響をシングルセルRNA発現解析を用いて検討した。その結果、細胞増殖に関わるヒートショックプロテイン、細胞走化性・血管増生に関わるCXCL8などの発現が抑制され、また、癌転移に関する分子S100A8、EMTに関わるケラチン分子などの発現が変化していることが分かった。これらの分子の発現の変化が抗腫瘍効果につながっていると考えられた。

本研究で見出した化合物14-100は、腫瘍増殖を抑制すると共に転移・浸潤を抑制する薬効があり、画期的な抗腫瘍薬となることが期待される。現在、この化合物が関与している分子群の解析、および、増殖抑制のメカニズム解析を進めており、今後これらを解明し、新規抗腫瘍薬として非臨床試験および臨床試験へ進めて行きたいと考えている。